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カメラ付きの古い事務所のドアが、コンコンと二回ノックされた。
皆で一斉に振り返ると、そのドアがゆっくりと開いて、女性がヒール音を鳴らして入ってきた。
事務所の窓から真っ直ぐ差し込む夕日に瞳を細める。
小柄で細身のその女性は50歳くらいだろうか。完璧なメイクをした瞳を動かして事務所の中を眺めている。
お客?それにしてはー・・・。皆きっと同じタイミングで首を傾げたはずだ。
湯浅女史が立ち上がって困った顔で言った。
「あの、すみませんが。ただ今新規の受付は中止しておりまして――――――」
年配なのか若いのかよく判らない顔をしたその女性は、ゆっくりと微笑んで出迎えた湯浅女史を見詰めた。
「・・・あなた、湯浅さんね?」
「はい?」
湯浅女史は動きを止める。
女はそのまま視線を動かし、飯田さんを見て口を開く。
マットな口紅がべったりと塗られたその唇をつい凝視してしまった。
「・・・そして、あなたが飯田さんで、君が誉田君でしょう?」
飯田さんも誉田君も微動だにしなかった。ただ、いきなり入ってきて自分達の名前を呼ぶ女を見つめていた。
あたしはハッとする。
この女―――――――――・・・
チラリと視線を飛ばすと、目があった飯田さんが微かに頷いた。彼も気付いたらしかった。
この細身の体、まとめて頭の上で結んだ髪型、このタイミング。
一日何回も見ていた、あの粗い画像の女性に似ている。
「・・・あなたは富永アヤメさんですか?」
飯田さんが慎重に言った。
年齢不詳の女は軽く頷くと、カツカツとヒールを鳴らして事務所の真ん中まで入ってきた。
腰だけで歩いているように揺れている。
自分に視線が集中しているのを楽しんでいるみたいだった。
そしてにっこりと笑って―――――――――こう言った。
「そうよ、私は富永アヤメ。ここの社長、滝本英男の母親よ」
・・・・・・・・・はい?
目が点になったのは、あたしだけじゃあないはずだ。確認はしてないけれど、絶対に言い切れる。その時そこにいた湯浅女史も飯田さんも誉田君も、全員が仰天していたに違いない。
――――――――滝本の、母親、だと―――――!????
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