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「えっ・・・あの、ええと?何て仰いました?あなたは、社長のお母様なのですか?」
いち早く呪縛から解けた湯浅女史が聞く。他3人はただ呆然としてそれを見ていた。
だって。
だって、母親だって~!!
あたしはきっと口も開けっ放しの間抜け面だったはずだ。
居たのか、母親が!いやそりゃ生物学的には産みの母親は誰にだっているはずだが、それにしてもあのアンドロイドのような滝本に母親が、しかも生きて動いている母親がいるとは思わなかった!!
家族の話は聞いた事がないし、勝手に両親は亡くなっているものだと思ってた。何でも屋の叔父がいるというのは自分のバカ親父から聞いて知ってはいたけど、その人の話でさえも滝本本人から詳しく聞いたことがあるわけではない。
しかも、それにしては若くない!?滝本は今年36歳になるはずで、その母親であるなら普通に考えて50代後半とか60代とかじゃないの!??
この人いくつーっ!?
脳内絶賛大パニック中のあたしの耳に彼女の柔らかい声が響く。
「そう」
また大きく微笑んで、彼女は言う。
「あの子とは長いこと会ってなかったけれど、親子であるのは間違いないわ。そして、これも間違いないの」
言うや否や、彼女は金のかかってそうなハンドバックの蓋を開けて一枚の紙を引っ張り出した。
毒々しい紫色に塗られた長い爪に掴まれた紙には「委譲証」。
それを高々と捧げ持って、大仰に彼女は言った。
「あの子がここを私に譲ってくれたのよ。だから、この事務所は私のものになるの」
「は?」
あたしと誉田君がハモった。何かに驚くときだけは気が合うあたし達だ。
飯田さんと湯浅女史は黙ったままで富永アヤメと名乗った女の掲げ持つ紙きれを見詰めている。
彼女はまたにっこりと笑った。
見たことも会ったこともないが、魔女がいるとしたらこんな感じかって笑顔だった。
「だから、手続きが済み次第、あなた達は私の部下よ」
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