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夕方の4時過ぎ、夏場で、窓からはいまだ強烈な太陽が夕日となって降り注いでいる。
その綺麗なオレンジ色の光景の中で、真ん中に突っ立った小柄な女性は軽やかに笑った。
「あの子がサインするのに時間が掛かったけど、これでもうここは私のものなの。そんなわけだから挨拶に来たのよ。あなた達は、これからは私の部下になるのだから」
自分の席から立ち上がったままの格好で、飯田さんが静かに言った。淡々と。
「・・・私はここの持ち主に雇われているのではありません。滝本所長と契約をしておりますから、上司が変わるのでしたら辞めさせて頂きます」
ついで誉田君がやっと驚きの呪縛からとけて喚く。
「こんなやり方は納得出来ません!ボスと直接話をさせて下さい!」
あら・・・と小さく呟いてしばらく飯田さんを見詰め、それから彼女は首を傾げて誉田君を見上げると、微笑したまま言った。
「それは出来ないわ。あの子がここにくることはもうないんですもの」
「だからどうしてですか!?ボスはどこにいるんです!」
大声で噛み付く誉田君を見詰めたまま、いきなり冷たい声になって滝本の母親はぴしゃりと言う。
「あなた、うるさいわ。上司が突然変わるなんて世間ではよくあることよ。お黙りなさい」
飯田さんが言う。
「もうここに来ないって、無茶苦茶です。所長の私物だってありますし、引き受けている案件で所長にしかわからないことも沢山あるんですよ」
滝本の母親は、軽く頷いた。
「この事務所は汚いし、私のものになったら改装しなくちゃならないわ。だから私物はその時に片付けられるわね。あの子の仕事は私が引き継ぎますから大丈夫よ。あなたが心配することではないわ」
そしてそのまま隣に立つあたしに視線を移す。
「それで、あなたは?従業員は3名のはずだけど」
見据えられたその瞳の形が確かに滝本に似ている――――――そんなことが頭をよぎり、咄嗟に返事が出来なかった。
飯田さんが声を飛ばす。
「この方はここに出入りしている職人さんです」
あら、と呟いて、彼女は頷いた。
「職人・・・つまり裏方ってことね?なら何かしらの犯罪者なのね」
ぐっと詰まった。ま、確かにそうなんだけど・・・この女に言われると、何かムカつく。
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