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あたしが一言も話せないでいると、今度は隣から誉田君が怒鳴った。
「野口さんはボスの恋人です!!」
パッと女が目を見開く。そして今度はあたしの全身を舐めまわす様に眺めた。
湯浅女史と飯田さんが同時に誉田君を睨んだ。余計なことを、と思ったらしい。
女は真っ赤な唇の端を歪めて笑う。嫌な笑い方だった。
「・・・恋人?あの子の?それは本当なの?何ていったかしら・・・野口さん、だっけ?あなた、下のお名前は?」
その笑顔と言い方に紛れもなく腹を立てたあたしは低い声でぶっきらぼうに言った。
「・・・教えて欲しけりゃ滝本さんを出して」
「―――――生意気ね」
ふん、と鼻で嗤う。
中指を突き立ててやろうかと考えたけど、それは得策ではないなと判断してやめた。
「まあいいわ。どうせ英男に遊ばれているんでしょ。あの子が真剣に誰かと付き合うなんて考えられないわ。せいぜい利用されて、捨てられるのがオチよね」
開けたままのハンドバックを近くの机において、女はあたしをピタリと指差したあと、そのままドアに向けて動かした。
「さよなら、野口さん。私はあなたは要らないわ。裏方の職人には別の者を雇うから。私の事務所から出て行って頂戴」
あたしは目を細めて前に立つ小柄な女を見詰める。
・・・クソババア。
どうする、あたし?あの綺麗にまとめてある髪の毛を引っ付かんで引き摺りまわしてやろうか。いやいやそれよりはポットのお湯を澄ました厚化粧にぶっかける?それよりもそれよりも、壁際に立たせて投げナイフの練習でもしようか?
あたしが物騒な仕返しをあれこれ企んでいると、それまで黙っていた湯浅女史の凛とした声が事務所に響いた。
「・・・出て行くのはあなたです。不法滞在と嫌がらせで通報しますよ」
「何言ってるの!?」
カッとなって女が湯浅女史を振り返る。
・・・短気な女だな。あたしは体の横で静かに2本の指を屈伸させた。だいじな人差し指と中指に力を込める。
湯浅さんは微かに笑った顔で、堂々と女を威嚇している。
「その委譲証は無効です」
「えっ!?」
滝本の母親は焦ったように紙を自分にむけて覗き込んだ。それにするすると近づいていって、紙を指し、湯浅さんは微笑んだままでアッサリと言った。
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