第2章 ムカつく女

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 誉田君が嬉しそうに万歳をやかましくして(ひっさしぶりに見た、生の万歳三唱)、大きな声で言う。 「女子供からはとらないが古来からのスリのルールなんじゃなかったでしたっけ?」  あたしは不機嫌に唇を尖らせて膨れっ面を作った。 「ムカついたんです、あのババア。良心のカケラも痛まなかったわ」 「素晴らしい腕前でした、全然気付かなかった」  飯田さんまで褒めてくれる。いいのか、犯罪行為だぞ、今のは。  皆、一様に怒ってたんだな、と思う。  あの女に。 「早速拝見」  誉田君が彼女の個人情報の固まりを机の上にさらけ出す。  現金が約5万ほどと免許証、その他カード類、レシートの団体さんがばらばらと出てくる。  思わず現金に手が伸びそうになった自分を辛うじて止めた。やばい・・・ダメダメ、習慣は簡単には抜け切らない。 「富永アヤメ・・・間違ってないようですね。・・・ええ?!」  湯浅さんが免許証を持ったまま仰け反った。 「何、どうしたんですか?」 「これ以上驚くことが?」  すかさずあたしと誉田君が突っ込むと、彼女は免許証をこちらにむけて呆然とした体で言った。 「・・・あの人、まだ51歳です・・・」 「へ!??」  ―――――若っ!!若そうだとは思ってたけど、マジで若い。ってか、え?今51歳?滝本が今年36・・・ってことは、15,6で生んだってこと!??  ひょえええええ~っとあたしが叫ぶ。誉田君はイマイチ判ってないようで、きょろきょろして皆の反応をうかがっている。  滝本・・・すんげー量のくらーい過去がありそうだって思ってたけど、出生から苦労してそうな雰囲気だぞ、こりゃ!母親との年齢差が15,6って、下手すりゃ姉で通るよな。  あたしと湯浅女史が見詰め合って呆然としている間に、男共はせっせと財布の中身を検分していた。 「・・・金使い荒そうですけど、お金持ってそうでもありますよね・・・」 「これなんかゴルフの会員権だろ?結構高いぞ」 「何が目的で調査会社なんか?ボスからご家族の話って聞いたことないですけど、俺」 「こっちもない」  手を忙しく動かして、免許証と健康保険証から必要な情報をコピーする。そして全部綺麗に拭いて、元通りに戻した。
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