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ちょっと待っていてください、そう言って車から出て、スタスタとマンションまで歩いていく。
あたしはその後姿を見ていた。
彼等はこんなことを毎日しているのだ。素人は大人しくしときましょっと。
10分位してから戻ってきた飯田さんが車に乗りこんだ。
「予想通りでした。億ションと呼べる建物ですね。入口には警備員、キーなしだとエレベーターも動かないようですし、宅配便も全てロビーのレセプションで受け取りをするみたいです」
レセプション?・・・わお。ホテルかよ。
「郵便受けに回っただけでも御用ですかと声を掛けられました。取り合えず目でみたところはそんなものです。602号室の名前は富永祐一。あの人の夫でしょうかね」
取り合えずとは恐れ入る。あの短い時間で警備員に見詰められながらそれだけ観察出来るなら素晴らしいではないか。
あたしでは無理だ。
運転席で長いため息をついた飯田さんが言った。
「とにかく、鍵を手に入れることからですね。富永アヤメの家の鍵が望ましいけど・・・同じ6階の別の部屋の鍵でもいい」
「そうですね。取り合えず観察するしかないでしょうし・・・あの女のあとはつけ回さないとダメですね」
行き先を全部チェックしないと、所長まで行き着かないでしょう、と飯田さんが話すのを聞いてうんざりした。
・・・・うわああ~・・・面倒くさい・・・。もう手っ取り早い方法ないんだろうか。
あたしが思わず零した舌打ちを聞いてしまったらしい飯田さんがくるりとあたしを振り返った。
「―――――――野口さん」
「へ・・はい?」
ハッとしてあたしが返事をすると、やたらと真面目な顔の飯田さんがハンドルに凭れた格好でこっちを見ていた。
その真剣な表情に思わず身を引く。・・・何デショウカ。
「一人で危険なことはしないと約束して下さい」
「・・・はい。しませんよ、勿論」
あたしの返事にも表情を変えず、じっとこっちを見る。・・・居心地が悪いんですけど、飯田さん。心の中で突っ込んだ。
危険なことって何だ?あたしは痛いのも辛いのも嫌いだぞ。
「私は所長や桑谷さんほど器用で賢くありません。あなたの行動は予想できないし、それのフォローだって出来ません。ですから一人で判断して突っ込んでいかないと約束して下さい」
あたしは虚をつかれた。
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