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身軽な格好で小さな紙袋一つでぶらぶら歩いていて、通りすがりに交番を発見し、前後に人がいないのを確認した。そのドアの前に歩きながら紙袋からあの女の財布を落とす。
そして早足で立ち去った。
小さな駅前でゴミ箱に用済みの紙袋を突っ込んで、地元までの切符を買って改札に入る。
ホームの上には生暖かい風が吹いていた。
今から夜遊びに出かけるらしいカップルが人目もはばからずにいちゃついている。それをちらりと見て、不快感からゴミ箱を蹴っ飛ばしそうになった。
まーくん、とか由美ちゃん、などと呼び合う甘ったるい声が耳に入る。両目を閉じて下を向いた。
短くした髪型で耳が丸出し、くそ、これじゃあ聞きたくない音まで入っちゃうんだな、と思った。
何だ、これは。またホームシック?どうしちゃったの、あたし。
カップルを見て鬱陶しかったことなんてそうそうない。今までは、仲がよろしいことでってオヤジみたいな感想しか出てこなかった。
なのに。
あたしは嫉妬してるんだ、彼等に。そう気付いたら、今度は居た堪れなくなった。
暑いホームの上、端まで歩いて人から距離を取り、寒くはないのについ体を抱きしめる。
いきなり体中の細胞が、震えだしたようだった。
自分でも判らない感情の嵐がやってくる予感がした。だけどその時に電車がホームに入ってきて、ほっとする。
やばい・・・・。あたしは、今晩一人でいられるかな。
不安がやってきたのを感じ、それを追っ払おうと不機嫌な顔のままで電車に乗り込んだ。
取り合えず、ここから離れよう。
そして何だったら酒の力でも借りて、この感情は殺しておかなきゃ。
電車に乗っている間、ずっと拳を握り締めていた。
やっと暗くなってきた窓の外、町には明りが溢れていた。
それをじっと見詰める。
反射してうつる自分の顔は見ないようにだけを心がけた。
発散する、何かが必要だ。
とにかく、今晩を無事に過ごさないと―――――――――
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