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滝本のことを、湯浅女史は社長、飯田さんは所長、誉田君はボスと呼ぶ。そして滝本本人は、俺はここの所有者で教育係だ、と言っていた。
で、どうしてあたしは今、ヤツのことを聞かれたのだろう。
飯田さんは少し首を傾げてゆっくりと言った。
「・・・野口さん、所長と一緒じゃなかったんですか?」
「え?」
今度はあたしが怪訝な顔をした。
滝本と一緒?後の二人の顔を見ても、そう思っていたらしいということは判った。
あたしは首を横に振る。
「いえ、あたしはまた旅行に出てましたから。昨日、日本に帰国したとこで。滝本さん一緒じゃないです。居ないんですか、あの人?」
お土産を持ってきたんですが、と紙袋を持ち上げて見せると、事務所内にガッカリした空気が流れた。
どうやらあたしは著しく期待を裏切ったらしい。
非常にガッカリしたらしいけど何とか微笑を浮かべて、入ってくださいと湯浅女史が手招きしてくれる。
あたしは何が何だかよく判らないままで取り合えず事務所の中に入った。
「えーっと・・・あたしと一緒にいると思ってたんですか?」
何を聞けばいいか判らなくて、そう口にすると、前で飯田さんが頷いた。
「はい。野口さんと旅行でも行っているのか、もしくは何かの案件で動いてるのかと思ってました」
「・・・仕事だったら連絡入れるんじゃないんですか?」
あたしの最もな意見に皆一斉に頷いた。・・・まあ、例え旅行であっても連絡は入れるだろう、あの男なら。
「はい、所長はその点マメな方ですから、連絡もなしに何日も姿が見えないってことはないとは・・・思ったのですが。野口さんとも連絡が取れなかったので、一緒にいるのかなーっと」
言いながら、本気でそうは思ってなくて、それはどっちかと言うと希望に近かったんだろうな、ということが判る顔の飯田さんだった。
ああ、とあたしは頷く。携帯は日本におきっぱなしだった。そりゃあ捕まらないだろう。それに、帰ってからチェックもしてなかった。
友達もいないあたしには携帯はほぼ用無しなので、チェックする習慣がないのだ。
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