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日本を出ることは滝本には言ってあったけど、他の人は知らなかったってことなのか―――――――――と、そこまでたらたら考えて、やっと、え?と言葉が出た。
「居ない?何日も?あの仕事人間が?・・・冗談でなくて?」
あたしが呆けた声で言うと、湯浅さんが沈んだ顔で言った。
「はい、冗談でなくてですね・・・」
そしてため息。ゆっくりと息を吸い込んでから言った。
「実は、社長はここ2週間、連絡が取れないんです。引き受けてしまっている案件は3人で何とか出来ましたけど、社長にしか判らないことも沢山あるし・・・野口さんがいらっしゃるのを待ってたんです」
私は瞬きを繰り返す。
「・・・えーっと、電話は?勿論通じないんですね?」
誉田君が頷く。
「ボスの家まで行ってみたんですけど気配もなかったんです。携帯は電源が切られているみたいで・・・」
・・・おいおい、マジかよ。あたしはちょっと呆れる。
だって、それって立派に行方不明じゃないの?警察に依頼できるくらいじゃないの、捜索願ってヤツを。
そうだよ警察に――――――調査会社の社長を探して下さい、と。・・・・そこまで考えて、ぐっと目を瞑った。言えないよね~、そんなこと。2週間じゃそこらじゃ。言ってみれば普通の仕事じゃないんだし。
飯田さんが重たい口調で言う。
「・・・だから、野口さんを待ってたんです。何か知ってるに違いないと思って。それを確認するまでは鍵を借りて所長の部屋に入るのは止めておこうと話てて。・・・一人旅だったんですね」
思わずすみませんって謝りそうになってしまった。いや、あたしは別に悪くないんだけど。
持ってきたお土産の紙袋をそろそろと床において、あたしは滝本の大きな机を見る。
それは朝日の中でキラキラと光る埃を浴びて、いつものように端然とそこにあった。
誉田君もいつもの元気はないし、飯田さんは途方にくれたようにため息を吐き出した。
何てこと。ぐるりと目を回した。
あたしを泣かせるこの世でただ一人の男、滝本が・・・。
消えてしまった。
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