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ーー刻が止まってほしい。
彼は刻に抗いたかった。「自然は残酷である」とはよく言うが、自然の中で最も残酷なのは断然〝刻〟だろう。山崩れ、地震、雪崩、津波ーー挙げれば枚挙に暇はないが、それらが同時に起きたとしても何であれ生き残る人間はいるだろう。
だが、刻はそうはいかぬ。刻の前には人の抵抗など無力だ。誰もそれからは逃れることなどできない。皆、じわじわと年を取り、やがて刻に呆気なく殺される。どのような英雄や賢者も、それの前には頭を垂れる他ないのだ。分け隔てなく、降りかかる災害。歳をとることが、彼はどうしようもなく怖かった。
だから、そうした刻さえ止まってしまえばなんて事はない。老いることはないし、皆といつまでも生きていくことができる。短絡的ではあるものの、なんと素晴らしいことであるか。喪うことなど亡くなってしまうのだ。こんな素晴らしいことが他にあろうか。
不老不死ではダメだ。自分だけが良くても、周りがいなくては時への完全な〝抵抗〟にはならぬ。
周りとともに不老不死になってこそーー、刻が死ねば、我々人間のーーそして自分の勝利となるだろう。
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