1人が本棚に入れています
本棚に追加
「全く、我ながら情けないな。国家試験が近くに控えているのだろう。早く勉強し給えよ」
唐突に、背後からしわがれた声が上がった。
彼は後ろを見遣る。
「なぁにを鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしているのか。とんだ間抜けヅラだな 」
「うぉぉぉぉぉお！！？」
彼は驚きの余り椅子から転げ落ちてしまい、床で頭を打った。彼の背後には見知らぬ白髪白髭の老人が忽然と立っていた。頭は河童を連想させるように円を描き禿げ上がっていた。その顔には、彼を見下げ果てた様な憐憫とも見て取れるような複雑な表情が浮かんでいた。
「あ……あ、あんた」
彼は頭部を強打したにも関わらず、すぐに起き上がるーーが、力が入らずその場で無様にも尻餅をついてしまう。無理もない。音も立てず、背後に見知らぬ老人が立っていたのだ。それも彼の部屋で。彼は慌てて後ずさり老人から距離を取ろうとするが、すぐに机に身体が当たってしまう。
彼の言葉にならぬ言葉に老人は片眉を吊り上げる。
「私か？私はお前だ」
「は？」
老人の言葉に少年は絶句してしまう。老人は大儀そうに嘆息をつく。
「同じ事を二度も言わせるな、戯けめ。
私はお前だ。まぁ、お前が私になるかと言えば、それはノットイコールになるのだがな」
最初のコメントを投稿しよう！