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「アリアよ!」
――かくしてバルトゥズは大団円へ向けて、愛に殉じたかの亡国の王のように、最後の主張をするのである。
「故にわたしは決めたのだよ! 集まった皆を文字(ライト)で! 婚礼の儀を音楽(ムジーク)で! 何より美しい君を、絵(ピクティ)に、残すことをね!」
と、アリアは遂に笑みを漲らせ、かの姫君と決別を図るように、今一度至福のティアラを嵌めてみせた。さしものバルトゥズもそれには参った。書いても描いても奏でても、なおも叶わぬ場所(もの)があるとしたら。むう、とバルトゥズはたじろいだが数瞬だった。“ならばそれさえひとつに纏めて、矢のように放てばよい”バルトゥズの眼いよいよ爛々と輝き、それと共に漲らせた勇気。それがこの英雄の英雄たる所以であり――
――この女神の女神たる所以でもある。そうなのだ――わたしは何を恐れる必要があったのだろう。滅びの神の筈がなかったのである。それはバルトゥズに取って、何物にも代え難い創造の土壌だったのだ。
――“世界”だったのだ、最初から。
アリアは例のごとく前屈みになりながら、全力で戒めた。「もう! また馬鹿なこと言ってるっ!」
バルトゥズは例のごとく笑いながら、豪快に怒鳴った。「はっ、馬鹿はどちらだ……! この声が、聞こえないのか我が妻よ! 書くのも描くのも奏でるのも一緒だ! 一緒なんだよ!」
――妻はとうとう歓喜に泣いた。
「また夢みたいなこと……、言ってるっ!」
英雄奇譚
最終節『大団円の星』
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