君に降り積む雪になる

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「私ね……」 次の言葉をのみ込み、俯いた。 まだ言い出せない……。 ごまかすように咳払いして、白菜やお肉をお鍋に足す。 「三次はね、雪が降る時はすごいんだよ。こっちの比じゃないぐらい」 肝心な一言をどう切り出せばいいのかわからず、喉の奥が詰まる。 持てる勇気をすべて集めても、到底足りない気がした。 何より大切なものを自ら手放す残酷な痛みをぐっと噛みしめ、もう一度息を吸い込んだ。 「私ね」 声が震えてしまう。 顔を見ていると決意が鈍ってしまいそうだったけれど、涙が零れないように目を大きく開いて顔を上げると篤史と目が合った。 「うん」 わかってるよ、という風に頷いた篤史を、九年分の愛を込めて見つめ返す。 「あのね……」 篤史の顔も湯気の向こうでわずかに歪んだ。 強くなれ、と心が叫ぶ。 抱き締めるばかりが愛じゃない。 寄り添うばかりが愛じゃない。 手を離す痛みと、その先の孤独を甘受することも愛だ、と。
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