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真新しいドアはまだ建材の匂いがする。
昨年、お祖父ちゃんが他界した後にお父さんが一念発起し、築七十年を優に超えていた実家はついに建て替えられた。
というのも、のっぴきならない事情があったからだ。
私が生まれるはるか前に馬洗川の堤防が決壊して町が水害に見舞われ、川に近いうちの家も床上浸水したことがあった。
それから長い年月の間にどうやら床下が腐っていたらしく、お祖父ちゃんのお通夜で弔問客の重みに耐えきれず、突如、客間の床が抜けたのだ。
親族と仏様がいる仏間は無事で、被害者はお客様だけなのがまた滑稽だった。
お祖父ちゃんは結構な大往生だったため、もともと悲しむというよりは和気藹々としたお通夜だったものの、出したばかりのお茶とお饅頭とともに弔問客全員が床下に落下した時は大騒ぎになった。
不謹慎ながらこのセンセーショナルな出来事は刺激に飢えた町内に興奮を持って迎えられ、今でも語り草になっている。
以来、この町ではちょっとした建て替えブームが起きて、淳平の設計事務所は大忙しだ。
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