14532人が本棚に入れています
本棚に追加
〝いつか転勤で三次に行くかもしれないな〟
目を閉じたまま笑った。
「三次に支社はないと思うよ」
もう二度と会うことはないのかもしれない。
でも、私たちは生きて、
どんなに遠く離れていても、
同じ空の下にいる。
空から舞い降りる雪の音に耳を澄ませた。
頬を撫でる雪の感触は、そっと優しく触れる篤史の手を思い出させる。
笑うとできる目尻の皺。
低く撫でるような声。
涙、匂い、吐息、体温……。
失った愛が身体に刻みつけた記憶は一生消えない。
それでも人はまた誰かを愛するために、前に、前に、歩いていく。
最初のコメントを投稿しよう!