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その日は卒業旅行で皆と夕闇町という田舎町に来ていた。普段はあまり旅行の類は好きではない僕だが、これで皆とお別れなのだと思うと、流石に名残惜しいものがあり、今回の旅行に参加することとなった。でも最後の日、突然の嵐に見舞われて、僕らは帰るのを中断し、夕闇町の外れにある洋館に避難した。でもそれが間違いだった。
「おい、雄太。何をメソメソしてんだ」
「別にしてないよ」
友人の健一が僕にタオルを渡しながらこう言った。正直、僕は怖い。逃げ込んだ館は誰も住んでいないようだったし、何より、こんな田舎町に西洋風の大きな建物があること自体が不自然で、不気味だった。
「あ~あ、びしょ濡れ」
白いタンクトップを着たヒカリが、濡れて肌にベットリとついたソレを手で仰いでいた。僕は思わずゴクリと生唾を呑んで、その様子を静かに見守っていた。全く男というのは厄介な生き物だと、我ながら思う。こんな時だと言うのに、性欲の方だけはすっかりと健在なのだから。
「ねえ、律子は?」
ヒカリはタオルで濡れた髪の毛を拭きながら、健一の方を向いて言った。
「人がいないか探しに言ったぜ」
「こんな時に離れるなんて・・・・」
僕は思わず俯きながらそう言った。健一とヒカリが僕の方をじっと見つめている。その時だった。雷がピカッと薄暗い館を一瞬だけ照らした。僕は思わずビクッと体を震わせてしまった。
「おいおい、雄太。ビビり過ぎだっての」
健一が僕の肩に手を置いてきた。僕はその行動に少しだけ苛立った。彼はいつもこうだ。こんなに危険な状況で、どうしてヘラヘラとしていられるのか、僕とは全く違うタイプの人間だと思う。しかし社会は僕みたいな慎重な神経質人間よりも、彼のような大雑把な人間の方が好きらしい。就職も健一の方が良い所に決まっていたし、僕なんか、卒業ギリギリでようやく決まったぐらいだ。それも第一志望とは程遠い会社だ。
「とにかく、律子を探しましょうよ」
ヒカリは一年生の頃から一緒にいる律子が心配なのか、しきりに一緒に探すことを勧めてくる。
「きゃああああ」
突然、律子のものらしき悲鳴が聞こえて来た。僕らは大広間を出ると、そのまま声の聞こえる緑色のドアを開いて中に入った。
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