第一夜~絶望~

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それはありがたい、よかった死ななくて。 本当によかったのかはわからないが……。 『今現在この世界に召喚された同胞は七二、其のうち貴様らジスティア聖教の魔殺師どもに殺されたのが三〇余り、残りはどこかでひっそりと生きているか死んだか……詳しくは知らん』 ジスティア聖教とは魔殺師を排出し、この世界に急速に広まった宗教の一つである。 全ての魔女を殺すために、正義という名を振りかざした最悪の集団。 『聖は生まれた時から魔女だった、強制的に私たちと契約させらたんだよ。他の魔女もだいたい一緒だろう、自ら進んで私たちと、悪魔と契約したい奴なんていないだろう……』 「私も最初は嫌だったよ、けど貴方たちは私を魔女としての名前で呼んだことはなかった、それに本当の名前も教えてくれたじゃない」 「本当の名前、この悪魔たちのか?」 『言っただろう、私たちは元はこの世界ではない世界の人間だと、名前くらいあるさ』 確かにその通りだ、ジスティアがどんな方法で異世界から悪魔を召還したのかは知らない、しかしそれを成しえるほどの悍ましい力を隠していることは明白だ。 それでも俺は奴らを殺したい、たったそれだけの思い、ただの私怨であると笑われてもどうしても成し遂げたい願いなのだ。 「奏くん、そんなに急いでも仕方ないでしょ。だから今は普通に過ごしてみてよ」 普通に平凡に無駄に無意味に時間を費やせと言われているのと同じ、俺はすぐにでも……。 「無理だろ、お前も俺も既にまともな人間じゃない。どうして人殺しが平気な顔して普通の人間たちに紛れて過ごせる。俺には無理だ」 「そんなことない、お願いだからもうやめてよ……」 ただ意味が解らなかった、どうして俺なんかのためにこの女は泣いているのだろう、なんでこんなにも必死なんだろう、そういった疑問しかない。 『おい人間、お前は本当に魔殺師なのか?全くわからないな、私の認識する魔殺しの持つ独特の匂いがお前からはしない。それに、聖がお前のような人間に、自分を殺そうとした人間にここまで優しさを持って接しているのに、お前は何も感じないのか?』 何も感じない、感じていない、感じようがない。 俺はもう狂った、無邪気に狂った魔殺師だから。
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