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榊奏と私、剣城聖との出会いを語ると一か月前に遡る。
榊奏がこの香咲高校に転校してきた日、まだ今ほど寒くもない十月のある日、比較的過ごしやすい冬の訪れる前。
「あ、ちょっと」
放課後、急に降り出した雨のせいで学校でやむのを一人待っていると、聴きなれない声が私にかけられた。
「雨やまないね」
「……うん」
「あ、俺は榊奏。今日転校してきたんだ、よろしくね。えっと……」
すると彼は、榊奏は困ったように首をかしげる。
「……剣城……聖です」
「剣城聖、そっか……綺麗な瞳、髪は染めてるの?」
唐突に、私に向けられた言葉、嫌いだった瞳と髪を彼はいつまでも笑顔で、曇りのない笑顔で綺麗だとそういった。
それからは何度か会って話すことはあってもお互いに距離を置いて、一定の距離を保って過ごしていた。
曖昧に均衡を保っていたつもりがいつの間にか近づきすぎていたのかもしれない、自分から。
でも、もう、だめだ。
いくら普通を求めていても、無理だ。
私は普通に、平凡に、無難に生きていきたいだけ、それさえ許されれば何もいらない、そう何も……。
そして……放課後。
私は教室で奏君を待っていた、携帯電話の画面を眺め、表示された時間分刻みをただ眺めながら一人、待っていた。
「ごめんね遅くなって」
いつものように笑顔で、屈託のない笑顔で榊奏教室の入り口に立っていた。
「ちょっと、歩きながら話そうよ」
そして私たちは学校を出て、特に目的地もなく歩き出した。
「そういえば最近魔女の都市伝説ってよく聞くね」
「うん、奏くんってそういうの信じる?」
「んー、いや信じるというよりも面白い話だと思わない?どこから広まったのかわからないけど、いまはみんなが知ってるメジャーな都市伝説になってる」
魔女の都市伝説、どこに行ってもこの話ばかりで嫌になる。
「そうそう、そういえばその話の一つにこういう話があるんだけど……」
不意に立ち止まる奏くん、小さな公園の入り口でいつも通りの笑顔でそう切り出した。
「えっとねー、そもそも魔女っていうのは……」
公園のベンチに二人で座り、奏くんの話を聞く。
「妖しい力を使うらしいんだよねー、でもいったいその怪しい力ってなんだろうね、よくゲームとかに出てくる魔法ってやつかな?それとも別のなんかこうすごい手品みたいなものなのかな」
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