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下校時刻になり、俺たちは連れだって学校をあとにした。
図書館帰りは駅までの道を二人で歩いて帰る。俺はそこから電車で2駅。飯田はバスに乗るらしい。
いつもたわいもない話をしながらその10分ばかりの道を歩くんだけど、今日は少し違った。さっきの勉強の仕方の流れだったんだろうか。
「俺さ」
飯田が話し始めた。
「お前のノートみたいに、人にわかりやすく表現したいって言ったじゃん?」
「あぁ。言ってたな」
「なんとなく将来のこと考えてて。俺、外国行きたいの」
「……外国?」
「うん。いろんなものを見たいし、いろんな考え方に触れてみたい。それで自分をちゃんと表現できるようになりたい」
「……役者になりたいのか?」
「うぅん。まぁ、役者ってのも魅力的ではあるけど。なんてか……例えばサラリーマンになったとしても、自分の言いたいことを相手に的確に伝えられるようになりたいんだ」
「前言ってたプレゼン能力だな」
「そう。うまく表現できれば、誤解されない」
「お前は誤解されたりしない性格に思えるけど?」
マジメに正直に、俺は言った。飯田の持つ柔らかい人当たりの良さは、人間関係上のトラブルとは無縁に思えたから。
飯田は形の良い眉を少し寄せて、笑って言った。
「誰にでも理解できることばかりじゃないんだよな」
「……?」
「俺だって、誤解されるよ。大事なことは特にね」
そう言うあいつは、少し寂しそうだった。
気の抜けた車掌のアナウンスが流れる。特に気の利いた返事もできず、降車駅に着いてしまった。
「じゃあ、またな」
「あぁ、また明日」
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