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スモッグが視界を覆う。演出が始まった。吉良が少女と雲の上に行く場面らしい。周囲にしてみればとんだ迷惑だ。安西もスモッグの威力に目が滲んだ。風向きが悪い。安西もスモッグに呑まれて、咳き込んだ。警官が来るのではないか。その危険性に安西は自分が宝石を盗んだことを思い出した。こんな場所に居てなにになる。もとより仕事は無くなった。撮影をしているのは元ライバルだ。安西はスモッグから逃げ出そうと撮影現場に背を向けた。
「この雲の上には何があるの!」
無邪気なヒロインの声が安西を止めた。
「良く、見てごらん」
吉良が、台詞を返した。
安西は、思わず振り向いた。
ヒロインの素直な問いかけがそうしたのだ。
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