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撮影を眺めながら過去を振り替えることになるとは思わなかった。その心中を誰が知るだろう。
本当にあの頃は若かったのだ。血の気も盛んだった。作る作品に情熱を注ぎ、負けた時になにも残らなかったことに気が付いた。
だからこそ、南極という未開の地域を選んで自殺するはずだったのに。あの優雅で過酷な大自然で氷河を眺めるうちにすっかり変わってしまった。
南極の美しさを語るよりも先に、素敵な夕日と果てしない氷の大地に実際に立つことがなによりの価値であると気が付いた。
それからは、生きようと決意したのだ。何がなんでも。
安西は自分がしでかしたことも忘れて撮影を眺めるうちに、何時しか、撮影に没頭していた。
撮影班は、てきぱきと現場を整え、「吉良、翔ぶ!」の撮影はスムーズに進む。
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