宝石を盗んだ男

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「変な名前? 迷宮にニックネームがあるの?」 「ニックネーム? 渡来人の名前であるか?」 「違う違う。ニックネームは、渾名って意味よ」  呟く吉良にヒロインがころころ笑う。 「迷宮に渾名?」 「おうよ。なんにでも名前はあるんだぜ。俺にもあるし、あんたらにもあるだろう」 「さよう。俺は吉良」 「私は、サヨリ。鷹さんは?」 「遠い昔に誰かにつけてもらった気はするが、迷宮案内をしているうちに増えてしまった。本名を忘れたんだ」  鷹は歩き出した。歩いた先は公園だ。安西もつい移動する。昔、撮影現場に居た頃を思い出した。こうやって、役者やカメラを眺めていた。 「なら、私がつけてあげるわ」  サヨリが定番の台詞を投げる。分かっていても締め付けるような感情が安西に沸いた。
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