第1章

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「オレ、今大会に向けて練習する時間が惜しいんだ。 もう帰れよ。 裕子も帰り遅くなると親に叱られるんだろ?」 冷たく言い放つ勇人先輩が非情な人間に見えて、 苦しい動悸がした。 冷たくされているのが自分に向けられているようで……… ハナって誰なんだろう………。 ハナってコの名前を出した途端、 勇人先輩は明らかに機嫌が悪くなった。 「勇人はダンスバカだね。 人の気持ちなんてどうでもよくて、踏みにじっても何とも思わないで突き放すんだ。 ダンスばっかやってれば? 私は勇人の彼女になりたくて告白したんじゃない。 私の気持ちに気付いて欲しかっただけだから!」 「………」 「もう、ダンス辞める! 成績落ちて 親にも反対されてるし、勇人に気持ち踏みにじられるし、やってても意味ないから。」 「踏みにじるって………勝手に被害者ぶるなよ」 「だって………もっと違うあしらい方があるでしょ? 鼻から突き放さなくたって………」 望月裕子はやるせなさを抑えきれないように声を震わせた。 「誰とも付き合う気はサラサラないのに、オレにどうしろって言うの?」 「………」 一瞬間が空いて、辺りは静まり返った。 「キスしてほしい………」 「は?」 「キスしてくれたら、勇人の事、諦めるから」 「………」 「ファーストキスは勇人じゃなきゃイヤだから」 勇人先輩は今、 どんな顔をしてるんだろう……… 望月裕子の切ない声に胸がドキドキしてくる。 私は、勇人先輩とキスをした。 からかわれた感じで。 『上手にキスできたら彼女にしてやる』と。 けれど、 勇人先輩は初めっから私を彼女にする気なんてなかったんだ。 ハナってコが 勇人先輩の特別なコで……… そして、 勇人先輩はキスする事なんて 何とも思っていない。 好きでもない私にキスが出来るんだから………。 私は 止めどなく涙が溢れてる事にすぐに気づけなかった。 胸が痛い………。 きっと 勇人先輩は 望月裕子に キスをする………!
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