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「じゃあ帰ろっか」
ぼんやりしながら帰り支度をするオレをよそに、立花がバッグを提げて横に立つ。
「ああ――その前に、ちょっと隣に……」
やっぱりどうしても一日一回は滴草を見ないと落ち着かない。オレのいるA組は廊下の一番端、階段のすぐ側だから、意図しないと大河や滴草の教室の前を通ることはなかった。
こんな雨の日、メールでは何度か一緒に帰ろうと誘ったことがある。けれど滴草には、何かと用があって断られていた。
「うん。じゃあ行こう」
オレのことは全部大河と立花に話して聞かせた。オレが滴草を好きだってことも。だから何かと協力的だった。
ぞろぞろと同じ階のやつらが廊下を歩いて帰っていく中、オレと立花はB組に向かう。開いてるドアから教室を覗き込めば、ちょうど滴草が立ち上がったとこだった。
「寮まで一緒に帰ろうって言ってみたら?」
立花に言われて、教室に生徒がほとんど残ってないのを確認すると、思いきって滴草に声をかけようとした。その時――。
「あっ、杉浦くん!どうしたの?今日石黒くん休みだよ?」
急に目の前に現れたのは、いつだったか滴草を迎えにきたときに話しかけてきたやつだった。
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