幽霊屋敷の首吊り少女

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 夏の終わり。長く、永かった夏が、ようやくその名を静め始めた。  それとともに、子どもたちの間で持ち上がっていた幽霊屋敷の噂も薄れ、姿を消し始める。  ただの悪戯なのか幽霊騒ぎを聞きつけた心優しい子どもが残していったものかは見当がつかないが、部屋に充満する、漂っては消える線香の煙。 「あぁ、そうか……」  不意に、少女はそう呟いた。  なにかを理解したような、それでいて絶望を味わったような。彼女の表情は、そんな哀しく苦しいものであった。  ―――私は、六月始めに生まれたんだ。そして。  付けられた火が侵食し、ゆっくりと消え始める線香。それに従って、少女の身体もうっすら透け始めたのだ。 「私は、一夏の噂……」  噂は、一時の満足を満たすことができれば役目は終わる。  つまりはそういうことだ。  だから、少女の存在は八月終わりに朽ち果てる。  意識は徐々に薄れ、やがて消え逝く―――。 「結局、誰も見つけてはくれなかったなぁ……」  折角噂の主として生まれてきてやったというのに、酷いものだ。  きっと、来年の夏もこうして。 「―――たった一夏の噂なんだとしても、またこうやって生まれてこられたらな……」  淡々と過ごした日々の記憶の片隅の、小さな一部となってくれれば。  来年は、来年こそは。  ―――きっと、噂の幽霊少女として、またこの屋敷に住み着いてやるんだから。  きらりと、名も無き少女の両眼(りょうがん)に溜まった滴が光って地に零れ落ちた。 「来年こそは、ちゃんと見つけてね…………?」  向日葵の歌は、夏を過ぎればお役御免だ。  それと同じように、少女の噂も一夏限りの好奇心を満足させるための道具。  自身に言い聞かせながら、少女はゆっくりとその姿を消し去っていった。  蝉しぐれもようやく亡くなる時期。良き晴れた夜の、夏の残り香だけが漂うこの屋敷に。  少女はもう、いないだろう―――。
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