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続・尻2
俺は尻に付いて考える。考えれば考えるほどにわずかながら、わずかずつながら、正気を取り戻していく自分に気づく。そうか、がん細胞の活動を気力で抑制し、介抱したという子供の話を思い出す。
たしかスター・ウォーズかなにかに見立てて、悪いがん細胞とドッグファイトをして撃滅するイメージを繰り返すとかなんとか。それと似たようなものなのか?
俺は、まだ、死んではいないようだ。
なんとかしなければ。ナントカしなければナラナイ。
俺はコミュニケーションをとろうと試みる。
「オイ、女、俺の話を聞け」
そう言うつもりが、アウアウと意味不明の言葉しか出てこない。女は震えている。名前は知らないが、そう。いい尻をした女だと、エレベーターで一緒になったとき、階段ですれ違ったとき、俺がそう思った女だ。
「オイ、コッチヲ向け」
何度となく繰り返して、ようやくそれらしい言葉を発することができた。女は俺の言葉に反応し、恐る恐るこっちを見た。
「未だだ。まだダイジョウブだ。だが、ジカンがナイ」
女は俺に尻を向けたまま、顔だけをこちらに向けている。両の手で頭を抱えて震えている。それはそうだ。こんなに恐ろしいことはないだろう。俺が女なら、とっくに逃げ出すか、俺に止めを刺しているだろう。
意識と感覚がはっきりとしてきた。それで理解した。おそらく俺が意識を失ってから何かあったのだろう。俺は玄関で噛み付かれた以外に体に何箇所かダメージを追っている。どうやら頭を何かで殴られたらしい。灰皿か。俺は彼女のすぐ側に落ちているガラス製の灰皿を見つけて納得した。
そして、身動きが取れない理由もわかった。俺は殴られた跡、後ろ手に縛られていた。足も縛られていた。ロープの代わりにハンガーにかけてあった俺のシャツを使ったようだ。せっかくアイロンをかけたシャツが台無しじゃないか。
「いい判断だ。どうやら俺はワルイ病気にかかったようだ」
「あ……、あなた意識が戻ったの?」
「戻った。だが、そう長くは持たない」
「何よこれ! いったいどうしちゃったの! 町中めちゃくちゃよ。外には出られないし、あなたもおかしくなっちゃうし……」
「パンデミックだな」
つづく
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