第1章

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 だいたい私はもて体質じゃない。 いまさら言うのもなんだが、 イハみたいに男も女も意識しないでわんわんやっていくのに慣れているせいか、 だれのことでも「友達」って言葉でくくってしまうのだ。 あの子も友達、 この子も友達。 その方が、 友達いっぱいで楽しー!って思うんだ…。 なんて。 それはウソ。 友達ってくくりで楽しめれば、 失恋ってないもの。 私は人を好きになってもふられちゃうのが怖かった。 否定されたら、 そのあと、 教室で、 廊下で、 校庭で、 どんな顔していいか分からない。 傷つくのがイヤ。 西城くんのことだって、 好きになって、 ハラハラドキドキしたりするより、 イハたちも一緒に、 大勢で、 わんわんしていた方が気楽。 自分にもうちょっと自信あったら、 そんなふうに考えないんだろうな。 私たちは時間ぴったりに旅館の玄関に着いた。 それぞれの部屋を目指して別れる間際、 西城くんが 「じゃあな、 伊原」 と言った。 そして 「美里もな」 と、 初めて、 美里って、 呼び捨てた。 仲のいい子はたいがい私を美里って、 名字を呼び捨てる。 これってなんか、 一歩進展? 「おやすみ、 俺の夢なんかみるなよー、 美里」 と、 イハがまた悪ふざけ。
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