第1章

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 極限まで鍛えられた肉体と、魔力で煉獄を支配してから、早幾年。挑んでくる挑戦者を最上の玉座に鎮座して待つ日々に、俺はいい加減飽き飽きしていた。挑む立場だった頃は、毎日次の戦いの事を考え技を磨き、肉体の強化に努めてきたが、それも頂点になってからというもの、行ったことはない。挑戦者も、新参に毛が生えた程度の実力の持ち主しかいなく、歯応えがない。各試練の門扉に立つガーディアン達はそれなりの実力を持っているが、所詮は一度負かした相手。心が踊ることはない。毎日が退屈で仕方がなかった。  そんな時だった。煉獄の管理者から、その話を聞いたのは。 「ずいぶんと退屈しているようですね。アダム」  その日も軟弱な挑戦者を完膚なきまでに叩き潰し、久々に装備の更新とメンテナンスをしている時だった。  不意に聞こえてきた声の方を向いてみれば、そこにいるのは顔にマスクをつけて白衣を纏った女だった。この煉獄を作り上げた張本人であり、管理者である存在、MS.VBは両腕を胸の前で組み、風化するように崩れている挑戦者の体を踏みつけていた。 「あぁ。退屈しているよ。管理者。俺は一体いつまでここに居れば良いんだ?俺をこの牢獄から解放してくれる奴は、一体いつになったら現れるんだ?それと、その足をどけろ。お前からは価値はないかもしれないが、ついさっきまで戦っていた相手なんだ。敬意を払いたい」 「それはすまないことをしたわね」  素直に動いたMS.VBはこちらに歩み寄ってきた。普段は憎まれ口の一つでも叩き、自分がいかに優れた存在か、そして俺達がいかに下等な存在かを長々と喋るのだが、それらがない辺り、今日はいつもには無いほどに機嫌が良いようだ。 「アダム。質問に答えるけれど、絶望してはダメよ?まず一つ目の質問に対する答えは、すぐに解放する、よ。二つ目の質問に対する答えは、いつになっても現れない、よ。満足したかしら?」  俺の思考が凄まじい勢いで今までの経験と有らん限りの知識を用いて自問自答を繰り返した結果、管理者が俺に危害を加えようとしているものと判断した。更新が終わった武器を顕現させ、MS.VBから距離をとる。 「俺を倒すつもりか!管理者!」  MS.VBは一瞬動きを止めた後、お腹を抱えながら快活に笑いだした。
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