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僕と健一は二手に分かれて、律子のいるバスルームを探した。もう少し僕らが冷静であれば、高野さんから場所を聞いていただろう。
「律子」
僕は手当たり次第に扉を開け、こんなに広くて掃除が大変そうな館の中を、乱暴に踏み荒らして行った。そんな折、半開きになっている扉から、光が漏れ出ているのを発見して、僕はその中に飛び込んだ。
「げほ、げほ」
息を切らしながら脱衣所まで来ると、確かに律子の来ていた服が籠の中に、丁寧に折り畳まれていた。
「待ってろよ律子」
僕はバスルームの中に入り、白い湯気を顔に浴びながら、仕切りになっている緑のカーテンを開けて、お湯に肩まで浸かっている律子を発見した。
「律子、大丈夫?」
「ちょっと、雄太君、何して・・・・」
律子は突然入って来た僕の顔にお湯を掛けた。ある意味当然の反応と言える。
「ご、ごめん。心配になってつい・・・・」
「早く出てってよ」
律子は肩までお湯に浸かると、不機嫌そうにプイッと顔を僕の方から離した。
「悪い、本当にごめん」
僕はそのまま立ち去ろうと、脱衣所の方に歩き始めた。
「がば、ごぼおおお」
「律子?」
背後から奇妙な音が聞こえたので、僕は怒られるの承知で再び律子の方を振り向いた。
さっきまで風呂桶の中にいた律子がいない。僕は慌てて彼女の元に駆け寄った。見ると、お湯の表面に泡が浮かんでいる。
「うああああ」
何と、律子がお湯の中に仰向けに潜っているのだ。口と鼻からブクブクと泡を出しながら、眼はあらぬ方向を向いている。一体何をしているんだ。酒に酔っているわけでもあるまいし、何故、こんな意味不明な行動を取るのか、僕には理解できなかった。とにかく、今は彼女を助けなければならない。
「律子、律子」
僕は服が濡れるのも気にせず、お湯に入ると、律子の体を持ち上げようとした。しかし、不思議なことに、彼女の体は重石でも付けているかのように重く、いくら腕に力を込めても、全く持ち上がる気配がしない。
「嘘だろ。何だよこれ」
僕はお湯の中に顔を突っ込むと、律子の両脇に手を入れて、強引にお湯から出そうと試みた。しかしそれも無駄だった。まるで風呂桶と一体化しているかのように、ぴったりとくっついて離れないのだ。
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