第二話 最初の犠牲者

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 数秒後、僕はずぶ濡れになったまま、風呂桶の奥に沈んだまま息絶えた律子を見下ろしていた。何故、どうしてこんなことになったのか。昨日まであんなに笑っていた律子が、あれから一日しか経っていないというのに、いとも簡単に死んでしまった。卒業旅行に来たのがそんなにいけないことだったのだろうか。僕には分からない。 「ああ・・・・」  僕は食堂での出来事を思い出した。そう言えば、僕も食堂にいた時、溺死させられそうになっていたな。どうやらこの館では一人になると、溺死してしまうらしい。理屈なんて分からないけど、現に律子はここで死んでいる。眼を開けたまま、両手、両足を広げて、浮き上がるでもなく、風呂桶の底で、僕の方を見つめたまま、一切の生命活動を終えたのだ。 「おい、律子は・・・・」  健一が遅れてやって来たが、もう遅い。僕は灰色の抜け殻のような瞳で、健一を見つめていた。その様子から健一も何かを察したらしい。僕の隣に来ると、風呂桶に両手を付けて、そこに沈んでいる律子の顔を見た。 「う、嘘だろ。うあああああ」  健一は僕を突き飛ばすと、そのまま両手で頭を抱えたまま、バスルームの端に蹲っていた。その後すぐに、僕らを心配して高野さん達がやって来た。 「そんなことって・・・・」 「嘘でしょ。ねえ、律子。起きてよおおおおお」  高野さんと北条さんは口に手を当てたまま硬直していた。一方、律子とは大学入学当時からの付き合いであるヒカリは、泣きながら、自分も後を追わんばかりに荒れていた。健一もヒカリも泣いているが、何故か僕だけは泣いていなかった。僕は冷たい人間なのだろうか。いや、そうじゃない。あまりにも衝撃的なものを見てしまったので、気持ちの整理がつかないだけだ。
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