第二話 最初の犠牲者

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 僕らは大広間に戻った。この館で起きる出来事は何もかもが夢の中の話のようだったが、現実問題、律子はもう二度と起き上がることはない。誰かに殺された。僕以外の全員が他殺を疑っていたが、僕だけはそれに反対する。何故なら、彼女は自分から風呂桶に潜ったのだ。そして、信じられないぐらいに強い力で、底の中に沈んだ。きっと、この館には悪霊がいるに違いない。僕も一度殺され掛けているから分かる。 「これから、どうしましょう・・・・」  北条さんは肌寒そうに、自分の体を抱きしめるようにしながら、ボソッと呟いた。佐藤さんは北条さんの肩を後ろから優しく叩いた。 「明日までの辛抱だ。今日は寝ることを諦めよう。皆でここにいれば、怪しい奴が来たってすぐに分かる」 「そうね・・・・」  窓から外の景色を見ると、相変わらず嵐は酷く、寧ろ雨脚が強まっている気さえした。個人的に、怪我をするのを覚悟しても、この館から一刻も早く出るべきだと思うのだが、きっと誰も賛成してくれないだろう。 「お前が第一発見者だよな?」  健一が僕の方を向いてそう言った。その瞬間、部屋内の空気が凍り付いた。全員の視線が僕に向かって集中する。疑惑と恐怖の眼だ。僕を疑っているのか。 「だったら何?」  上手く言葉が紡ぎ出せず、そう切り返すのがやっとだった。佐藤さんとかに疑われるのは良いが、どうして健一は僕を疑うのだろう。それにヒカリの眼も、何となく僕を警戒しているように見える。 「落ち着きなよ。彼は犯人じゃないわ。だって、すでにあの娘はお風呂にかなりの間入ったままだったのよ。彼が行った頃にはもう・・・・」  高野さんは言い掛けたところで黙り込んでしまった。死んでいたとは言い辛かったのだろう。しかし、彼女の推測は少しだけ違っている。僕が来た時、律子はまだ平気だった。それが突然、僕が部屋から出ようとしたら、風呂の中に突っ込んで行ったのだ。
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