第二話 最初の犠牲者

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 高野さんのおかげで、僕への疑惑の眼はいくらか弱まったが、もう動くのはごめんだ。下手に行動すれば、こうやって疑われるのだから、僕はもうここから離れないぞ。  僕らは床の上に座り込むと、無言で窓の方を見ていた。もう会話の内容が尽きたのだ。今更話すことなんて何もないし、明日になれば天気だって戻るのだ。今日はずっとここでじっとしていよう。誰もがそう考えていたであろう矢先、先程までずっと黙り込んでいた田丸さんが、突然口を開いた。 「そ、そう言えばさ。あの話を知っているかい?」  田丸さんの言葉は、明らかに僕達に向かって放たれていた。きっと、佐藤さんや北条さん、高野さんはその話を知っているのだろう。気味悪そうに田丸さんを睨んでいた。 「止めなよ田丸君。あの話は」  北条さんは制するように言ったが、田丸さんは話を止めようとはしない。それどころか、まるで怪談話でも聞かせるように、楽しげに口を動かしていた。 「夕闇町、この町は昔から洪水が多くてね、江戸時代には住民のほとんどが流されたことがあるんだ。それから、水難防止のために神社を立てたりしたらしいが、どれも効果がなかった。そんな折、村の外から御手洗という名字の、坊さんが現れた。彼は村の中には水難を引き起こす妖怪がいると言った」  田丸さんはさっきまでの様子は嘘であったかのように、流暢に夕闇町の物語を語っていた。いつの間にか、僕らもその話に引き込まれた。 「御手洗は、村の中にいる水難の元凶を退治する代わりに、自分が住める家と、一生遊んで暮らせるだけの金と食料を要求した。村民はもちろん、それに応じた。そんなことで村が助かるならお安い御用だってね。でもそれが失敗だった。彼は妖怪を退治した後、村で暮らし始めると、突然、態度を急変させて、暴君のようになった。何と彼は、村の女達を凌辱したり、目に付いた人間を殺すようになったのだ」 「そんな酷い・・・・」  ヒカリはこの手の話が苦手なので、顔を青くしていた。しかし田丸さんは話を休めるつもりはないようで、さらに続けた。
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