第二話 最初の犠牲者

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「ついに我慢の限界に達した村民達は御手洗の住む家に押し掛けて彼を殺害してしまった。死に際、御手洗は最後の力を振り絞って、村に巨大な嵐を召喚した。そして村を全て水で流してしまったんだ。その後、御手洗の子供が現れて、村を元通りに直した。御手洗の子供は村民から英雄として崇められ、彼の子孫は未だに、この夕闇町で暮らしているという話だ」  田丸さんの話は何処か矛盾していた。御手洗が村を滅ぼし、その息子が村を再生させ英雄になる。奇妙な話だ。 「まあ、この話は全部おとぎ話さ。御手洗というのは、夕闇町の大地主の一家で、権力者ではあるが、そんな力はないよ。きっと、御手洗家を嫉む人間が造った皮肉さ」  田丸さんは溜息交じりにそう言うと、再び黙り込んでしまった。 「僕はその話、嘘じゃないと思います」  僕は田丸さんの方を向いてそう言った。何故ならば、僕にも経験があるからだ。食堂で溺死し掛けたのは、きっと妖怪か御手洗さんの仕業に違いない。そうでないと説明ができない。 「おいおい雄太、お前マジでどうしたんだよ?」  健一が呆れたような顔で僕を見てきた。しかし僕は止めない。 「だって、僕、食堂で溺れ掛けたんですよ。突然黒い人影が現れて、僕はそれに取り込まれてしまった。そしたら息ができなくなって。きっと律子もそいつに取り込まれたんだ」 「ちっ、マジでうるせーなお前」  健一が舌打ち交じりに言うと、突然僕の胸倉を掴んできた。突然のことに、僕は言葉を失った。彼の燃えるような瞳が僕を捕らえている。 「何が言いたいんだよ。ヒカリが怖がってんじゃねえか。次に下らないこと言いやがったら殴るぜ」 「・・・・」  悔しいことに僕はビビっていた。健一は僕よりも力がある。だからこうやって暴力で迫られると、僕は何も返せなくなるのだ。
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