【芹沢鴨】という男

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所変わってここは大阪。 私は芹沢さんの誘いで、大阪にまで随行している。 大阪出張メンバーは、芹沢さん・土方さん、平山五郎さん・沖田さん・斎藤さんに私の7人だ。沖田さんは今夜はみんなと一緒に大阪に泊まって行くけれど明日の早朝には一足先に京に帰るそうだ。 幕末の大阪は現代とは建物も町並みも違うけど、なかなか活気がある。 今夜は、大阪出張メンバーのみんなと吉田屋で宴会をすることになった。 けれど、芹沢さんは後からゆっくりと来るらしく、大阪での宿泊先である【京屋】で居眠りをしていた。 芹沢さんに言われて、私は男装をして遊郭についてきている。 「おい、雫…」 「何ですか?斎藤さん。」 「俺の隣を歩くな。普通、女なら男の三歩後ろを歩くものだ。」 「何それ?古臭い考え。そんなのあと150年もすれば誰もやる人いなくなりますよ。」 斎藤は雫の言葉にむっとする。 「だがお前は今、違う時代にいるんだ。この時代に合わせろ。」 「やだやだ、これだから頭固い人は困るんです。私に着物と袴を貸してくれた平助くんだったら絶対そんなこと言わないのに……」 それを聞いた斎藤のこめかみがピクッとなる。 「【平助くん】だと?雫…お前、何、平助のこと【くん付け】で呼んでいるんだ。馴れ馴れしいのにも程がある!」 雫は斎藤の言うことなどさほど気にせず、斎藤の横でにこっと笑う。 「平助くんがそう呼んでくれていいって言ってくれたんです。なんならこれを機会に斎藤さんのことも一くんって呼んであげましょうか?」 雫の言った言葉を聞いて、斎藤の足が止まる。 「雫!お前、俺を馬鹿にしてるのか!?次に一くんなどと言ったらただでは済まさんぞ!!」 「えぇっ?でも、沖田さんには一くんって呼ばせてるじゃないですか?どうして私はだめなんですか?」 「お前、また一くんと言ったな!?」 「まあまあ、そんなに怒っちゃダメだよ、一くん。」 雫は斎藤の肩をぽんぽんと叩いて、斎藤をなだめる。 斎藤のこめかみがぴくぴくっと動く。 「総司とは男同士だから別に構わんが、お前は女だし年下だから駄目だ!!それに女にそんなふざけた呼び方をされたら、俺が周りの奴らから侮られる!! 今後、一切、俺のことを一くんと呼ぶな!主人として小姓のお前に命じる!!」 「…こんなときだけ主人ぶって嫌な感じ……」 雫の顔がぶすっとふくれる。
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