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東の森に立つ寂れた神社。
そこには、灰色の瞳をした崩れかけの龍の石像が時たま訪れるものを出迎えていた。
その石像に近づく影ひとつ。
『へぇ・・龍を祀った神社か・・・・』
今では人の出入りもない。手入れも行き届いていない壊れかけの見捨てられた神社。
片目を眼帯で隠し、本を片手に青年は所々欠けている龍の石像に近づき触れ、不意にその瞳を覗き込む。
『ん?こいつ・・・確か近くに川あったよな・・・』
本と肩にかけていた鞄と木刀が入るくらいの中身の入った長い袋を石像の傍に置き、部活鞄をあさってから背を向け歩き出す。
しばらくすると水の匂いがしてくる。
『ほっ・・俺の鼻が正しくてよかったぜ。』
先ほど鞄から取り出してきたタオルを川で濡らして絞ると来た道を戻っていく。
神社に戻ってくると、荷物のある龍の石像の元へと足を向け目の前に回り立ち止まる。
『ちょっと待ってろな・・・』
青年は先ほど濡らしたタオルで壊れかけの石像を拭き、最後にその瞳を拭きとる。
『・・・もしかしたらここに来るのは俺が最後かもしれないが・・・こいつを見れてよかったかもな・・・』
青年は無意識にか、眼帯の上から自分の左目に触れ、気がついたときには何かが吹っ切れたように荷物をもって立ち去って行った。
その後ろ姿を、砂ぼこりの拭き取られた宝石のような蒼い瞳の龍の石像だけが見つめていた。
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