第1章

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いつもとは反対の列車に乗って、ふた駅先のあの町に向かう。 数年前、あいつに会ったときのように。 リンクでの練習のあと、少し疲れた体で、高鳴る胸の高揚を誰かに悟られないように少ししかめっ面をしながら 通った懐かしい町が、夕焼けに照らされながら見えてくる。 「美浜町ー美浜町ー」 いけない、ちょっとボーッとしてた。 全日本に向けて追い込みをかけるこの時期はハードだ。 しかも、今年はフィギュアスケート選手としての最後のシーズンと決めている。 下手な演技は出来ない。 改札をぬけると、すぐに商店街が広がっている。コロッケが売りのお肉屋さんや古びた骨董やさん…最後にきたのは六年以上も前なのに、少しも変わっていない。 やばい、待ち合わせぎりぎりだ。急がないと。そう、あいつは時間に厳しいやつだったな。 「きゃっ」 小走りで歩いていると、急に腕をつかまれ、前につんのめった。 「おねーちゃん、速いよ。ぼくもう無理…」 私は振り返って言葉を失った。あの頃のあいつと同じように、胸を押さえながらその子はうずくまっていた。
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