宝石少女と男子高校生

11/53

53人が本棚に入れています
本棚に追加
/53ページ
**** 午後3:40。帰りのホームルームの終了を告げる予鈴が校内に鳴り響いた。学校生活11年目、ほぼ毎日のように聞き続けたその音がなり終わると同時に、クラス担任への一礼していた学生たちの頭が上がった。 学生たちは各々、掃除や部活、帰宅するための移動を開始する。和樹も、掃除当番に当たってはいないため、帰宅に向け席を立つ。今回は、教室を出る前に香織との挨拶を済ませ、足早に階段を降りていった。 夕方から雨の予報となっていたが、先ほど窓の外を確認したときには、どうやらまだ降っていない様子だった。 これなら雨が降りだす前には帰れるだろう。和樹は手慣れた動作で外靴へと履き替えると、鍵を片手に校舎から飛び出した。 空は曇り空ではあるが、まだ雨が降りだしそうな怪しさはない。 和樹は、駐輪場に停めていた、青色の自転車に跨がり、家路につく。校舎横を通り、まだ野球部員のいないグラウンドを通過しようとした。 その時だった。 右前方から、突如強風が吹きつける。 一瞬、降りだしたか…とも思われたが、暴風雨のような風の吹き方ではない。ただ一直線に、和樹を目掛けてその風は吹いてきたのだ。 目を開けているのもやっとであった和樹が、その異変に気がついたのは数秒後だった。 右前方から吹き、和樹を捉えたその風は、今度は彼を持ち上げるように吹き上がる。いや、確かに彼を自転車ごと持ち上げてみせたのだ。 「う、うぉっ…!?」 わずか5秒ほどで、地上から10メートルほどの高さまで持ち上げられた和樹は、いまだ状況を呑み込めていなかった。 風の吹き方は、扇風機が発生させる前方一点の限られた範囲に吹かせる風に似ている。事実、和樹の付近に植えられていた木や草花は、根本から折れるものや、その葉や花弁を激しく散らしているものまで様々だ。だが、10メートルほどしか離れていない場所にある木々などは、風に揺れている様子が一切なかった。 そして、足下で急上昇する風…それらは、自然現象ではまずあり得なかった。 ただ理解できるのは、強い風が和樹目掛けて吹いていることだけ。
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!

53人が本棚に入れています
本棚に追加