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思考を巡らせる和樹に、更なる追い討ちがかかった。上昇するように吹いてた風が、再び彼を後方へ吹き飛ばすように、その流れを変えたのだ。
空中に浮いた状態の和樹には、掴まるところも何もなく、そのままグラウンド沿いに設置されている網フェンスへと身体を叩きつけられるしかなかった。
強い衝撃により、一瞬意識が朦朧とした結果、和樹は網フェンスを掴むことが出来ず、自転車と共に落下していく。
幸いなことに、落下した先は野草の生い茂った、網フェンス脇の地面であったために、グラウンドからはみ出していた土と野草が落下の衝撃を和らげた。
しかし、それでも和樹の全身に鈍痛が走る。生まれてこの方、感じたこともなかったその感覚に、思わず表情をしかめた。
すぐ目の前にあるコンクリートで埋められている歩道に落下していれば、これだけでは済まなかっただろう。『自分はついてる』と自身に言い聞かせ、和樹は感覚が薄れているその右手で上体を起こした。
「ほう、あの高さから落ちても立ち上がるか。やっぱこれを手に入れたやつは人間辞めてやがるってか?」
風に乗って聞こえててくるその声は、どこか挑発染みたものがあった。ぼんやりとする視界の中で、和樹はその声の持ち主がいるであろう方向へと視線を向ける。風が吹き始めた、右前方を。
和樹の視線が捉えたのは、一人の男性の姿だった。加えて、その男性は地上10メートルほどの高さに浮遊している状態であった。
男は、宙に浮いたまま、ゆらゆらと和樹のいる方へと移動し、10秒ほどの時間をかけて、彼の頭上でその動きを止めた。
「BINGOだぜ、全くよ。構わず先制パンチかましちまったが、こいつで合ってるんだよな?」
和樹には、その質問の意味が分からなかった。しかし、これはどうやら彼に向けて問われているものではないであろうということについてはすぐに理解できた。
頭上に佇むその男の目線は、彼へと向けられていなかったからだ。
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