宝石少女と男子高校生

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一体何に語りかけているのか…その様子からして、独り言のような調子ではない。 宙に浮き、虚空へ語りかける男が見上げた先にいるという、その異様な光景を、和樹はただ見ていることしか出来なかった。 男は、驚愕と困惑とが入り混じった表情で見上げている和樹の事を見下ろしながら、今度はその彼に向かって意気揚々と言葉をかけた。 「おいおい何だよその顔はぁ?すぐに俺が奪ってやるとはいえ、ちょっとは抵抗してくれよ。あんたも持ってんだろぉ、こいつをよぉ」 そう言いながら、男はおもむろに首もとにかけてあるものを見せつけてきた。 その右手に納められているものは…ネックレスだろうか。未だ視界がはっきりとしない和樹には、どのような造形をしているかまでは知ることが出来なかったが、ネックレスやペンダント辺りのアクセサリーの類であることは見て取れた。 しかし、和樹の首もとはおろか、手指、耳…全身を見てもそのような装身具などはついていない。 それでは、この男は人違いで自身の事を襲ってきたのか。身に覚えが無いうえに、顔も名前も一切知らない男に急襲された和樹からしてみれば、そのような考えに至るのは至極当然であろう。 だが、男はある確信を持って和樹を攻撃してきたのだ。その超常じみた能力によって… 「あんた、何故俺を狙った…」 網フェンスに叩きつけられた際、喉をやられたのか。風に流れて消え入るような、小さく震えた声が二人の間に響いた。 わずかな静寂。その間、和樹の問いが、まるで理解できない様子でいた男であったが、その表情が憤怒の色に変わった瞬間に、再び突風が和樹を襲った。 今度は地表を後転するように5メートルほど吹き飛ばされる。 二度、思い衝撃が和樹を襲った。 前方に伸ばされた右腕には複数の擦り傷ができており、肘の辺りからは少量ではあるが出血も確認できる。 上体を起こそうにも、今度は身体が言うことを聞いてくれない。
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