宝石少女と男子高校生

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再び聞こえたその声は、はっきりと和樹の耳に届いていた。それと同時に、身体を不可視の何かが包んでいく感覚を彼は覚えた。先ほどまで、鉛のように重く、感覚さえも遠退いていた身体が、徐々に軽く、感覚をも取り戻していく。 和樹が両手を地面に当て、上体を起こそうとしたと同時に、上空から烈風が吹き荒れた。 「うおぉぉぉお──!」 和樹は、自身が記憶している人生の中で、最も大きな声であるだろう雄叫びとともに、一気に身体を起こした。不思議とその身体は痛くない。 しかし、立ち上がったところで、それを防ぐための手段がない和樹は、両腕で身体を守るように、顔の辺りで交差させた。 両目を瞑り、歯を食いしばりながら、突風の直撃を待った。 しかし、数秒経過しても、和樹の身体は地表についたままだった。しかし、風が吹き荒れている感覚だけは残っている。 和樹がゆっくりとその目を開くと、そこに広がる光景に言葉を失った。 透明な液体が大きく渦巻き、突風の侵攻を防いでいたのだ。そして、その渦の中心には、先日、例の老人が手にしていた、薄く透き通った青色の石が嵌められた指輪が存在した。 「な、あの指輪………」 見間違えようがなかった。あの日、受け取らなかったはずの指輪が、渦巻きを発生させながら目の前にある。それも、自身を守るかのように。 和樹は、交差した両腕をほどかないまま、その超常現象を凝視した。 "和樹、私を手に取ってください。でないと、あなたの命が危ない!" 三度聞こえてきた少女の声。和樹は声の主はどこにいるのか一瞬考えたが、その答えは明確だった。 これまで和樹が生きてきた日常では起こり得なかった現象が、この短時間に何度も起きてきた。だからこそ、彼の導きだした答えは、現実味のないその答えは、やはり正しいのだと…… 5d50e2bb-a610-4c9a-b470-6d4addb41801
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