宝石少女と男子高校生

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それから間もなくして、和樹と男とを分断していた巨大な渦巻きの壁も消滅する。 「防いだ、のか…」 目の前で起きた事象について、自身も関与したという実感も持てないまま、和樹は一瞬にして壁がその巨体を消した虚空を眺めるしかなかった。 その一点に意識が集中していたことが、僅か3秒とはいえど、和樹の視界から男の姿が外れることに繋がった。 この隙を男が逃すはずがなかった。 一点に力を凝縮させ放った一撃を、完璧に防がれたことへの苛立ちは消えてはいない。だが、彼が身につけるネックレスに宿る何かが、彼に冷静な判断を取り戻させ、再び右腕へと力を集中させる。 それと同様に、和樹の右薬指で輝く指輪に宿る声も、彼の意識を現実へと引き戻す。 "和樹、攻撃です。向こうからまた来ますよ、何か手を打たないと─" 瞬間、和樹は再び男の姿を捉えるも、相手はこちらに次の一撃を与える準備を整えていた。こちらに向けるその右手には、木々や草花のさざめきが先ほどの比ではないが、空気の流れが生じている様子が見てとれる。 どうやら、次の一手は威力よりも速さを重視したらしい。こちらも、何か策を講じなければならないが、思い付くのは二度あの渦巻きの壁の姿だ。 守っているだけではいけない、と、頭では理解しているが、攻撃へ転じるための手段を思い浮かべることが出来なかった。 「くそっ…」 男の右腕から、不可視の力が放たれた瞬間を、和樹の瞳は捉えた。しかし、周囲を巻き込むことなく直進してきたそれが、どこまで近づいてきているのかまでは目視できない。 直後、腹部に鈍い衝撃が走る──
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