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事の大きさについては理解しているが、学校全体に周知させたくないといった思いがあるのも事実だった。
指輪売りの老人の一件以降、多少は反応が良くなったとはいえ、周囲の和樹に対する態度は未だよそよそしさは残る。そのような状況で、暴行事件の話──あまつさえ空気の流れを操る?人物による被害だなどと正直に報告をしようものなら、今後、彼の事を信じようとするものなどいなくなってしまうだろう。
目の前に証人が2名いるが、彼らも和樹と同一視されるか、『二人揃って悪夢を見た』などと揶揄されるのが落ちだ。
「気持ちはありがたいんだけど、学校にはちょっとな…まずは、警察に相談してみることにするよ」
当然、警察に相談する気などないが、適当にこの場をやり過ごすことだけを考えるのであれば、何も不自然なところはないだろう。
それにもう一つ、学校に周知させないための念押しの文句を付け加えた。
「この事は、こっちで相談はするから、君たちは口外しない方が良い。事が大きくなれば、次に狙われるかも知れないから」
二人とも相当なお人好しなのだろう。それでも放ってはおけないというような表情で何かを訴えようとするも、先頭を切ろうとしていた少女を、もう一人がそれを制止した。
その表情は、少女のそれと同様の色を浮かべていたが、和樹の思うところについても、一部ではあるだろうが理解を示している、そのようなものだった。
「先輩が本当に言いたいことは、何となくですけど分かりました。でも、何かあれば必ず…」
間もなくして、二人は何度か和樹へ向けお辞儀を繰り返しながら家路についた。その姿を見届ける最中、続々と下校生徒の姿が現れはじめたため、彼は逃げるようにその場から離れていった。
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