宝石少女と男子高校生

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**** 破損したと思っていた自転車は、籠こそは凹んでしまっていたが、それ以外には目立った外傷はなく、運転する分にも問題はなかった。 後輩二人を見届けようとした最中、他の学生にまでこの姿を見られるわけにはいかないと、離れたところに転がったままの自転車を起こし、和樹は近くの公園へと逃げ込んだ。 遊具からは少し離れた位置にある公衆トイレの影に身を隠しながら、自転車の状態を確認し、跨がってみた際に彼が思ったのが、先ほどの感想だ。 自転車での移動のため、徒歩と比べればより早く移動することは出来るも、破けたシャツの所々に血の赤色が滲み出ている和樹の姿は、否応なしに周囲の目を引くことになる。 そう判断し、人通りの少ない裏道を利用し、家路についていたところ、不意に聞き覚えのある少女の声が、和樹の耳に飛び込んできた。 "今は、どこへ向かってるんでしょうか?" 先ほどまでとは異なり、何とも緊張感のない少女の声だった。どこからか周囲の光景が見えているのか、どうやらこの指輪は、和樹が移動していることを認識しているらしい。 「家に向かってる。こんな姿、あまり大勢に見られるわけにはいかないからな…」 "和樹の家ですか!?それは楽しみですね" 気流を操作していたらしいあの男と同様に、何も分からない者が見れば、ただ独り言を吐く学生として映るのだろう。 しかし、存在の見えないその声の持ち主は、確かに和樹に対し言葉を返してきた。それもまた、緊張感の欠片もない様子で。
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