宝石少女と男子高校生

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簡単なやり取りの後、数分が経過し自宅まで残り僅かとなった頃、一抹の不安が和樹の脳裏をよぎった。 ここまでの道のりは、周囲の目に触れないように遠回りをしてまで移動してきた。だが、帰宅後に、おそらく自宅にいるであろう母に、この姿を晒すことになるなどと一切考えていなかったのだ。 息子が傷だらけになって帰ってきた、更には少量とはいえ出血もしているとなれば、普通の母親であれば黙っているはずがない。 先ほどは、後輩2名に対し何とか口止めへと誘導出来たが、母の説得など出来ようはずがない。 あれこれ考えている内に、いつの間にか家の前まで着いていた和樹は、急ぎ物置へと自転車を停めた。物置から、家の方へと視線をやるが、居間のあたりに母の姿は見当たらない。 "ここが、和樹の家ですか?" 再び、少女の声。 これまで、指輪等の装身具の類いを一切身につけたことがない和樹にとって、多少の違和感を覚えるであろうと思っていたその指輪は、まるで身体の一部かのようにごく自然とそこにはめられていた。 しかし、一度その指輪の存在を意識すると、妙にむず痒くなる。 一旦、指輪を外そうと動いた、その時だった。 「あれ…?」 外れない。 その指輪は、和樹の指に対し、そのサイズが合っていないというわけではない。しかし、いくら引っ張っても、それが原因で和樹の右薬指に痛みが走るだけで、その指輪は微動だにしなかったのだ。 "もしかして、私を外そうとしていますか?" 和樹の行動の意味を理解したのか、少女の声が彼へと問いかける。しかし、その調子は『何故、そのようなことをするのか』といった様子だ。 和樹の返答を待たないまま、その声は続けた。 "少々、お待ち下さいね。私から和樹を離れようとしない限りは、外せませんから"
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