宝石少女と男子高校生

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生まれたままの姿で声を弾ませる少女。それを、和樹に見られても特に慌てる様子がないところから、彼女には『羞恥心』というものが無いらしい。 彼女の姿を、慌てて視線から外す和樹であったが、それを不服と捉えた少女は頬を膨らませる。 「あっ、何で目を逸らすんですか!?ちゃんと私を見てくださいよ」 そう言われて、正直に目を合わせることが出来る男性はそういないだろう。和樹も一高校男子、目の前の光景が気にならないといえば嘘になる。しかし、そのような一時的衝動を抑え込み、冷静な思考を取り戻さなければならないことを彼は理解していた。 『母親』なる存在は、多くを語らずとも、自身の子に起きた些細な変化など手に取るように把握出来る観察力と思考力を併せ持つ。 そのような存在を相手に、傷ついた身体まで隠し通すことは出来ないであろうが、怪我のきっかけや、先の指輪──現在は少女の姿となっているが、その存在自体は隠し通さねばならないからだ。 「と、とにかくだ…一旦指輪の状態に戻ってくれ。色々と事情があってな、このままじゃ落ち着いて考えられない」 この言葉が心底不服だったのか、先ほどより頬を大きく膨らませた少女。しかし、和樹が嫌味を含んでいるわけではないことを理解したのか、少し寂しげな顔で、指輪から人の姿へと変化した経過を逆に辿り、再び彼の手元に収まった。 "私の姿、嫌なわけではないんですよね…?" 脳に直接語りかけてきたその声に答えるように、和樹は青色の石を優しく撫でた。
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