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和樹の呼び掛けに応えるように、指輪は再び液体に。その液体は、少女の姿へと変化していった。先ほど、物置きの中で見た光景よりも短い時間のようにも思えたが、それは、彼の順応力の高さが影響したのだろう。
とはいえ、超常現象としか言い様のない光景に目を奪われ続ける訳にもいかず、彼は目の前の存在が完全に変化し終える前に、背を向けた。
状況としては、場所が物置から和樹の自室へと移っただけであり、今現れようとしているのが全裸の少女であることには変わりないからだ。
いつの間にか、変化を終えた指輪の少女は、彼女へ背を向けている目の前の少年へと声をかける。
「さっきもでしたが、何で私を見てくれないんですか?」
「いやいや、女の子の裸を直視できるわけないだろ!まずは、そこにある服を着てくれ」
先ほど取り出したもう一組の部屋着は、この少女に着させるのが目的だった。和樹の服であるため、当然、男性用衣類だ。しかし、少し大きめのシャツとウエスト部を締めることの出来るタイプのジャージであれば目立った問題もないだろう。
和樹の要望に対し、素直に従う少女。裸であることを一切気にしていない様子であったが、さすがに服の着方くらいは知っているらしい。
慣れた手つきで着替え終えた少女は、目の前にいる少年の肩をツンと、人差し指でつつく。言葉はないが、もう大丈夫であると伝えている様子だった。
和樹は、その呼び掛けに応えるように正面へ身体を直す。目の前には、見慣れた服にその身を包んだ、同世代と思われる少女の姿があった。
やはり、その瞳と髪は、指輪に嵌められていた石──もとい宝石と同じ色をしている。
先刻、彼女の発した言葉を、和樹は思い返していた。
『私本来の姿を見せるのは、これが初めてですねっ』
彼女の本来の姿…言葉通りの意であれば、これまでに見てきた指輪の姿は仮初めのものであり、現在があるべき姿であるということだ。
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