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「何者か……?私は、私であるとしか」
「俺の名前、知ってただろ?初対面のはずなのに。どこでそれを知ったのかと思ってさ」
何者であるのかという問いに対し、苦い顔を浮かべる少女であったが、和樹の新たな問いに対して、よりその色を濃くした。
「私は、小さい頃から『ゆーなぎ かずき』なる人物と出会い、共に生きていくようにと言われてきました。それが誰からの言葉だったのかまでは覚えていません……」
少女は絞り出すように言葉を繋げる。確信があるわけではないが、和樹には、この少女が虚言を吐いているようには思えなかった。
沈黙を通したまま、少女の言葉が終わるのを待つ。
「昔の記憶、あまり覚えていないんです。何時からか、長い長い夢を見ているようで……でも、あの時聞こえたんです。和樹が助けを求める声が、私の心の中に。深い眠りの中で、聞こえてきたその声に応えたかった……きっとそれが、私に残る唯一のものだったから」
彼女の言葉は、和樹の問いに対する正確な返答とは言えなかった。しかし、和樹がこれ以上、何かを追及することもなかった。
この少女は何者で、あの老人は何者で、あの浮遊男は何者で、あの力は何なのか……今、分からないことは、しばらくはそのままであるのだろう。ただ、静かにこの現実を受け止めるしか手段はないことを、和樹には理解できていたのかもしれない。
少女の言葉は終わり、感じた印象は先ほどとは変わらず。おそらく少女の言っていることは真実なのであろう。
可能性としてはあの老人であることが濃厚だろうが、見知らぬ誰かが和樹の存在を把握しており、この少女が手元に渡るよう働きがけた。それが今、現実となったわけだ。
肝心のこの少女が、幼少期から今日までの記憶がほとんど無いと言うのだから、これ以上何か得られる情報もなかった。
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