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「お、お願いします……!私、和樹と一緒にいたいんです!」
何か手段はないのか。そう考えていた和樹は、しばし沈黙のままだった。その静寂が、この少女に一抹の不安を与えてしまうかたちとなったことが、運の尽き目となった。
今、二人がいるこの部屋。鍵が備え付けられていないことに加え、防音設備があるわけでもない。どんなに小声で話そうが、近くに人がいれば、内容までは分からなくとも、人の声くらいは聞こえてくる。
しかし、少女の発した声は小声のようなものではなかった。
「あれ、誰かお客さん来てるの?」
和樹の母の声だった。それに、聞こえてきたのは1階からではなく、戸のすぐ向こう側から。
いつの間に、2階へと上がってきていたのか……
夕食準備のために台所にいたとはいえ、完成までの間、ずっとそこに居続ける訳ではない。当然、調理の合間に他の家事を行うことなどこれまでにもあったことだった。
しかし、和樹にはそこまでのことを考えている余裕がなかったのも確かであり、その結果が今の状況である。
母の声が聞こえてすぐ、和樹は目の前の少女を先刻と同様に指輪の姿へと戻るように伝えようとするも、それよりも前に戸が開く。
戸が開ききる前に顔を覗かせた母の視線は、青色の瞳と向かい合う結果となった。
「あら、外人さん?ハロー?」
「こ、こんにちはっ!!」
母と少女、邂逅の瞬間だった。
その光景を目にした和樹の思考は、一瞬硬直するも、呆気に取られている訳にもいかず、すぐに思考力を取り戻した。
おそらく母は、少女のことを同級生か何かだと思っているのだろう。しかし、『見られた』という事実は、もう変えられない。
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