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「あら、こんにちは。ちょっと和樹借りるけど、良いかしら?」
母の問いに対し、少女はきょとんとした表情を浮かべたまま、短く頷き答える。
声の調子は明るく振る舞っているようにも聞こえてくるが、その瞳は笑っていないことを、その光景を眺めていた和樹は気がついていた。年頃の息子が、同世代の女子をこっそり連れ込んで来ていることが、その理由なのだろう。
どう言い逃れするべきか、とも考えてはみるものの、この手の嘘をつくことが苦手な和樹に、何か策が思いつくわけでもなかった。
「少し待っててな、すぐ戻るから」
****
「あの子、誰。着てた服だって、あれ和樹のでしょ?」
部屋を出て、1階リビングへ移動し、食卓椅子に腰を下ろしたところで、母の最初の一言。和樹の同級生だと思っているのだろう、といった淡い期待は瞬時に砕け散る結果となった。
事実、和樹の衣類の洗濯、及び収納についても母の役目。和樹の私服など、全て把握されているに違いない。そして、そんな彼の服を着た見知らぬ少女がいるとなれば、このような反応になるのも無理はないだろう。
「そしてなにより、そのほっぺの傷。どうしたの?」
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