宝石少女と男子高校生

38/53

53人が本棚に入れています
本棚に追加
/53ページ
「こ、これは…」 既に血は止まっていた。 特に怪我が目立っていた腕、胴については服を着替えたことで隠せてはいたが、さすがに顔についた傷までは隠しようがない。傷自体を隠そうにも、絆創膏か何か、必ず目につくもので覆うことになるからだ。 そして、和樹を17年間育ててきた母である夕凪 美裕(みひろ)が、これまで一度も怪我という怪我をしてこなかった和樹の様子に気がつかない筈がなかったのだ。 美裕の確信を持った瞳が、和樹の姿を捉える。まるで、全てを見透かしたようなその瞳を前にして、和樹は口を動かすことができなかった。 目の前の母に対し、言い逃れをしようとしたところで、すぐに見抜かれるのは分かっている。しかし、何をどう説明すれば良いのか。それが彼には分からないままだからだ。 「和樹は昔から嘘をつくのは苦手よね、顔に出ちゃうんだもの。お母さんには説明しにくいこと?」 美裕の問いに、和樹はゆっくりと頷く。 その動作を確認した美裕は、どのような表情を浮かべたのか……下を向いたままの和樹には分からないままだったが、彼の頭に小さな手が置かれる。その手は何度か撫でるように動いた後、傷のある右頬へと移動した。 「この傷は、あの子の為についた傷?」 実際のところ、どうなのだろう。 何時、どのようにしてついた傷なのかは分からいが、あの少女を守るためについたものではないのは明確だった。 これ以上怪我を負わないように、少女が和樹を守ったようなものだからだ。
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!

53人が本棚に入れています
本棚に追加